2026年3月16日
【読書ログ】宇宙の果ての本屋【本を読む理由は、宇宙の果てまで続く】
本の重さを、物理的に考えたことがあるだろうか。知識を脳に直接インストールできる時代になっても紙の本にこだわり続けた男が、宇宙の果てで本屋を営んでいる——江波の「宇宙の果ての本屋」を読んでいるとき、思わずそんなことを考えた。一冊、また一冊と積み上げられていく紙の束が、宇宙の終わりにどれだけの重量になるのか。その途方もなさがおかしくて、でもどこか切なかった。
本書はその表題作を含む15篇を収めた中華SF傑作選で、『時のきざはし 現代中華SF傑作選』に続く第二弾として、立原透耶の編纂により刊行された。日本SF大賞 特別賞を受賞しており、15人の執筆者は王晋康や韓松といったベテランから、陸秋槎、陳楸帆ら中堅・新人まで幅広い。
アンソロジーの醍醐味のひとつは、一冊の中でまったく異なる手触りの世界を次々に体験できることだ。本書はその多様性が際立っている。顧適「生命のための詩と遠方」は、海洋汚染を処理するために作られたロボットが海底でひそかに動き続けているという話で、役に立たなさそうに見えるものが新しい命を生み出すという逆説を描いている。王晋康「水星播種」は生命を宇宙に拡散しようとする壮大な計画を、重要な決断があっさりと描かれる独特のテンポで語っていて、その乾いた感触が癖になる。
韓松「仏性」は、同じ著者の『無限病院』を読んだ直後だったこともあって特に印象に残った。短篇でもあの不条理な濃度は健在で、宗教と科学と人体改造が奇妙に溶け合う世界が数ページで展開される。短いのに、読み終えてしばらく頭に残る。
読者ブログでもよく名前が挙がる万象峰年「時の点灯人」は、時間を管理する仕事を担う存在の孤独と矜持を描いた幻想譚で、15篇の中でも詩情が際立っている。譚楷「死神の口づけ」は実際のソ連の生物兵器流出事件をモデルにしたバイオスリラーで、これだけ異色のリアリズムを持っている。コロナ禍を20年前に予言したかのような内容と評されており、確かに読むとその先見性に背筋が冷える。
こうして並べてみると、中国SFが「一枚岩」でないことがよくわかる。壮大な宇宙論から日常の幻想、パンデミック、ジェンダー、歴史改変まで、15人が15通りの方向に向かっている。それでいてアンソロジー全体に統一感があるとすれば、それはどの作品にも「人間であることの不思議さへの問い」が潜んでいるからだと思う。宇宙の規模で語っているときも、ねこの視点から語っているときも、その問いの気配がある。
巻末の解説も読み応えがある。個々の作品と作家について丁寧に解説されており、次に何を読めばいいかの地図として機能している。『三体』で中国SFに入った人が次の一冊を探しているなら、間違いなく本書を薦めたい。劉慈欣とは別の中国SFの豊かさを、15通りの入口から体験できる。
本を読む理由は人によって違う。ただ、その理由のどれかひとつでも、宇宙の果てまで続いていてほしいと思う。本書を読み終えて、そんな気持ちが残った。