濃密な描写、うっとりするほどの世界観。
共同墓地という狭苦しい場所を採用しているにも関わらず、それがむしろキャラクターの奥行きを演出している不思議さ。
ところどころに散りばめられている謎を拾い集め終わったあとに残された、微かな胸の痛み。それは捉えどころのない恋慕に似ていて、初めてわたしが物語に恋をしたことを知らせてくれました。
本の虫になったきっかけを作ってくれた、永遠不滅の一冊です。
あらすじ
冤罪で逮捕され終身刑を言い渡された元歩兵の少年・ムオルは、服務期間中の労役として共同霊園での墓穴掘りを命じられた。そんなある夜、ムオルは墓地で墓守と名乗る少女・メリアと出会う。メリアの不思議な雰囲気に徐々に惹かれていくムオルの元に、謎の子供・カラスが現れ、墓穴は「ザ・ダーク」を埋葬するためのものだと言うのだが……
一押しポイント
本作の魅力はずばり、徐々に距離感を詰めていくムオルとメリアの関係性でしょう。付かず離れずの絶妙な立ち位置から、ラストの描写に至るまでの過程がほんとうに見事なんです。時間軸を横軸、物語の奥行きを縦軸におくと、一見、一直線状にプロットできるように見えるのですが、そのポイント同士をすごい目を凝らして眺めると、点と点同士の微小空間に、無限大の奥行きを形成しているように見える箇所が現れるんです。
すごくないですか?
最後に
第14回のスニーカー大賞を受賞した作品だという前提条件がなかったとしても惹かれていたに違いありません。それくらい本書はすごいんです。
いまは、Kindle Unlimited読み放題の対象になっているので、ぜひ、手にとって読んで欲しいと思えた一冊です。