星、はるか遠く

海外SFの研究、評論、翻訳に加え古典的な作品の改訳も多数手掛ける翻訳家、中村融さんによる宇宙探査アンソロジー。九編のうち新訳が五編、本邦初訳が二編という気合の入り具合で、三十年以上前に刊行された作品であっても現在の視点から違和感なく受け入れられる。それはきっと、作品自体の保有するSF力もさることながら、編者の卓越した手腕が発揮されているからであろう。

「埋もれた秀作をふたたび世に出したい」という編者の動機が存分に溢れた本作は、Sci-fiだけでなく、Spec-fiライクな古き良き作品まで揃っているため読み応えは抜群。ただ、シュールレアリズムに全振りした作品「地獄の口」——目的不明なままひたすら危険な崖を下へ下へと潜るだけの話、もあったりするので、起承転結のはっきりしたストーリー展開を望む人にとっては、何これ珍百景な印象をボディーブローよろしく喰らわされることがあるかもしれない。そういうときは、なんかこれ、よくわかんねぇけどすごいかもぉ的雰囲気だとか、SFはやっぱ絵だよなぁ的情緒だけでも味わえればいいんじゃないでしょうかね(なげやり)。

ここで掲載順に作品群をそれぞれざっくりとまとめることにしよう。

フレッド・セイバーヘーゲン「故郷への長い道」は、冥王星の彼方で鉱物を探していた男女が、未知の加工物を発見するとこから始まる。それは微速で太陽方向に動いているのだが内部を調査してみると驚き、桃の木、山椒の木。微速で動いている理由とその原理がえぐい。

マリオン・ジマー・ブラッドリー「風の民」は、星間船の船医が辿る物語。彼女は木と風だけが住んでいる惑星にて子供を出産する。ただ、子供は星間航空に耐えられないことから、彼女は子供と共に二人だけで惑星にとどまることに。そこは彼女たちだけの世界であったはずだが、年を経て、徐々に色合いがかわっていく。

コリン・キャップ「タズー惑星の地下鉄」は、異星人文明の考古学調査物語。砂嵐の絶えない過酷な環境下の惑星で考古学調査が行われる。異星遺物がリバースエンジニアによって解析される過程が非常に面白い。

デイヴィッド・I・マッスン「地獄の口」は、深淵へとただひたすら潜っていく物語。淡々とした描写ながらも、恐怖が忍び寄ってくる。

マーガレット・セント・クレア「鉄壁の砦」は、見えない敵の攻撃を前にして、「何もしない」選択をとっている砦の物語。新任の士官はその行動に納得がいかず抵抗を始めるのだが、じわじわと異変が発生する。侵略がテーマのSF。

ハリー・ハリスン「異星の十字架」は、ロジカルで無垢な種族が暮らす惑星にキリスト教の宣教師がやってくる物語。宗教にロジカルを適用することは非常に残酷であると知れる作品だ。

ゴードン・R・ディクスン「ジャン・デュプレ」は、入植者の人間と原生ヒューマノイドとの戦いを描いた物語。ヒューマノイドと唯一会話できる少年とその生き様に涙を禁じ得ない。

キース・ローマー「総花的解決」は、二つの敵対する異星種族のあいだに人間が入って平和的解決を目論む物語。好戦的な種族を前にしてはられる計略の数々はユーモアに富んでいる。

ジェイムズ・ブリッシュ「表面張力」は、本アンソロジーの核。人間の遺伝子をもとにして、水の惑星に播種された種族の物語。水面下でも生存できるよう環境適応されており、微生物と競合する生態系を育む。自分たちはなぜ生まれたのか。白紙の歴史が徐々に埋まるにつれて世界の解像度は上がり、やがて、彼らは外の世界を目指すことになる。

物語的なまとまりと面白さは「タズー惑星の地下鉄」「総花的解決」が強め。Sci-fiのバランスと濃度に優れているのは、最後に編まれた「表面張力」がダントツ。これは、まーじですごい。良い作品というのは、時代を経ても色褪せないことを十二分に知れること間違いなし。

作者: セイバーヘーゲン、ローマー他/中村 融
東京創元社

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