蝿の王〔新訳版〕

本書は、疎開する少年たちをのせた飛行機が孤島に不時着した場面から始まる。

序盤は、大人たちのいない空間で平和だった秩序を形成していたが、孤島の中に潜む<獣>の存在を皮切りに、徐々に秩序が乱れ、暴力と凄惨にまみれた場面へと展開。

果たして、少年たちは無事に救助されるのか。

漂流記を通して人間のあり方を説いた一冊。

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とりわけ、本書の教義的な色味が強く出ているのは、サイモンと<蝿の王>との対話。

「<獣>を狩って殺せると考えるとは!」豚の頭はいった。(中略)わたしがおまえたちの一部であることを。ごく、ごく、親密な関係にあることを! 何もかもうまくいかない理由であることを。ものがとがこうでしかない理由であることを」  (p. 252)

人間は誰しも暴力性を秘めていること、そして、その暴力(罪)は自分の思い通りにコントロールすることができない、ある種キリスト教の原罪に近接した雰囲気のなか、

「ぼくたちは人間を怖がってるのかもしれない」 (p. 144)

何気ないピギーの一言が、ぐさりと突き刺さるに違いない。

作者: ウィリアム・ゴールディング/黒原 敏行
早川書房

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