テックジャイアントと地政学

経済産業省の未来人材ビジョンによれば、日本の国際競争力はこの30年で1位から31位に落ち、生産年齢人口(15-64歳)は2050年に現在の2/3に減少するという調査結果をまとめている。高度なスキルを有する人材にとって、もはや日本は見向きもされなくなっている現状、より少ない人口で社会を維持し、日本が選ばれる国になるためには、社会システムの見直しが迫られている。

では、そうした時流を乗り越えるためにはどのような視点を持つべきなのだろうか。この問いに対して、DXと地政学の観点から一石を投じているのが本書だ。

前者では、デジタル技術を用いることで、生活やビジネスが変容していくことを表す「デジタルトランスフォーメーション(通称、DX)」が必須となった現代において、能動的にテクノロジーと向き合うための手がかりを示している。「GAFAM」や、急成長を遂げている新興企業のDX例を通して、鈍化する日本経済の成長に寄与するヒント(*1)を見つけ出すことができるだろう。

後者では、テクノロジーの地政学という概念の重要性を示している。とりわけ、喫緊のウクライナ侵攻において、テクノロジー活用の有用性は際立った(*2)。ただし、その結果として分散化されたネットワークが、ロシア側に対する取引の抜け道となっていることを示している。

以上のように、テクノロジーの活用如何によっては、人類の生活を豊かにする一方で、その逆の作用も生み出すことは想像にかたくないだろう。テクノロジーに対する正しい知識とその利用方法をアップデートし続けるためにも、海外の動向に目を向け、流行り言葉に惑わされないことは大切だ。

 

*1:本著とあわせて、著者である山本 康正氏の[文系にもわかる 最新テクノロジービジネス講座]をあわせて読むことで、国外テクノロジーに対する目利きを鍛えることができる。

*2:米スペースXではウクライナへ衛生インターネットサービス「スターリンク」送受信機を提供したことや、Airbnbでは手数料を限りなく少なくした上で、ウクライナのホストに資金を集める仕組みを奨励した。

作者: 山本康正
日経BP 日本経済新聞出版

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