伊賀と甲賀、それぞれ対極に位置する忍者同士の死闘が繰り広げられる本作の魅力を語る上で一番大事なポイント、それは、二流派の対立構造の組み立て方もさることながら、なんといっても戦闘シーンの描写濃度でしょう。
まるでそれ自身生命あるもののごとく旋回し、反転し、薙ぎ、まきつき、切断する
ここぞという場面での音の並びが身悶えたくなるくらい見事で、秘術合戦に深みを与えているのです。
軽やかな言葉の運びで形作られる本作は、まさに、たぐいまれなる筆圧で描かれる読む映像作品であり、私にとって、まごうことなき、おすすめの一冊です。
あらすじ
400年来の宿敵として対立してきた伊賀と甲賀の忍者たちが、家康の秘命を受け、「徳川三代将軍の座をかけて」凄惨な死闘を繰り広げることになる。
そんな両者の秘術合戦が行き着く先には、驚くべき結末が待ち受けていて——
感想
山田風太郎といったら、私の中で真っ先に思いつくのが、本作『甲賀忍法帖』です。この本に出会った時の衝撃は今でも忘れられなくて、
躍動感が、もう、すごいんです。
表現の自由度が、えげつないのです。
もともと、こういうポップな歴史・時代ものの小説を全く読んだことがなくて、その理由として、
『かんぺきな時代考証ベースのノンフィクション』じゃないとイケナイんだ!というステレオタイプ筆頭だったので、
こうした存在の外に在る書籍を全否定して悦に浸る。
という、いまにして思えば癖がげきつよな読み方をしていたのですが、いつの間にか、そういう観念を壊すきっかけづくりをしてくれた一冊になっていたんです。
『歴史ものだからといって、そんなに堅苦しくなくていいんだ』という視点は目から鱗で、この本を皮切りに、『魔界転生』や『柳生忍法帖』を読んでいくうちに、歴史・時代小説の深みに気づき始め、冲方丁の『天地明察』や、司馬遼太郎の著作へと沼ったのです。
そういう意味では、歴史を学ぶ楽しさを、表現の楽しさから演出することも大事、と教えられた一冊であり、歴史を通じて「現代の生き方」を再考する機会を与えてくれた大事な一冊でもあります。
歴史・時代小説を読んだことがない人への入門書としても、きっと、存分に効力を発揮してくれるでしょう。