ロボットとわたしの不思議な旅

本書は、アメリカSF作家ベッキー・チェンバーズのMonk & Robotシリーズのノヴェラ二作品を収録している。第一部の「緑のロボットへの賛歌」”A Prayer for the Crown-Shy“(2022)はヒューゴー賞長編小説部門を受賞、第二部の「はにかみ屋の樹冠への祈り」”A Psalm for the Wild-Built”(2021)はローカス賞の中長編部門を受賞。

舞台となるのは、惑星モタンの衛星パンガ。調和と均衡を基本理念とし、持続可能な社会を営んでいる。そんなあたりさわりのない環境での暮らしに不満を抱いていた主人公デックスは、修道僧をやめて喫茶僧——お茶を介して悩める人を救う——として奉仕の旅に出る。

喫茶僧を始めてみたはいいものの、最初は全くうまくいかない。というのも、もともとは造園僧だったこともあり、もてなしは言葉ではなく環境で構築していたからだ。気の利いた言葉をかけようにもうまく言葉は出てこないし、お茶の知識もなければ、椅子を用意するのも忘れるという体たらく。ただ、一度決めたからには最後までやり切るというデックスの性格が、徐々に喫茶僧としての才能を花開かせていく。

喫茶僧として名声を高めていたおり、またしても暮らしに違和感を感じ始めたデックスは、文明を離れて大自然へと向かう。そこで出会ったのがロボットのモスキャップだった。

「ワタシは次の問いの答えを得るために、ここに送られたのです。人間は何を必要としているのか?」

最初のころ、デックスはモスキャップを退けようと冷ややかな態度をとっていたが、おしゃべりで好奇心旺盛なモスキャップとの交流を深めていく過程で、自分が何を必要としているのかが明らかになる。そう、ロボットと人間の哲学的問答を通して、互いの存在意義をみつけだすのが本作の骨子なのだ。

内省的なデックスと純真無垢なモスキャップのおりなす会話劇、両者を取り囲む自然の脅威、使命、人生に対する焦り、隣人・家族愛は、読者の心を掴んで離さないこと間違いなし。

作者: ベッキー・チェンバーズ/細美 遙子
東京創元社

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作者: ベッキー・チェンバーズ/細美 遙子
東京創元社