前作の『タイム・マシン』と比べると、全体的に文学作品に近い色合いの中・短編集となっている。そのため、濃いめのサイエンス好きな僕にとっては少々物足りなさを感じた。ただ、1世紀前の作品群に現代にも通じるサイエンスを求めるのはナンセンスであろう。ともすれば、サイエンスそれ自体に着目するというよりかは、サイエンスを介した文明批評や社会情勢の反映という、のちのサイバーパンクやニューウェーブへとつながる活動を生み出した歴史的読み物として着目してみると、おもしろいものがある。読めば読むほど、味が出るというか、大衆的で薄っぺらいSFとは一線を画したウェルズの魅力を掘り出すことができるのだ。
もちろん、そんなことを意識せずとも本書は楽しく読める。純粋に物語の構成が精妙なのだ。しかもこれが、掌編小説のような字数の少なさでもって成立しているのだから、とんでもない手腕。
また、途方もない年月が経ってなお読まれ続けているのは、本書で描かれているものが人間の性質をうまくとらえているからであろう。時代の移り変わりを経ても、人間というのはかくも変わらないとは、もの悲しいものがある。
ウェルズのすごさと古典のよさを知れる良書。