KAエスマ文庫 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 下巻

存在理由が、主人を守るための道具・暴力でしかなかったヒロイン:ヴァイオレット・エヴァーガーデン。そんな彼女が手紙に込められた数々の想いを通して、教えられてこなかったヒトとしての感情:借り物→自身へと近接していく様は圧巻。感情が方がし始めたゆえに露呈するヒトとしての弱さを捉えた描写技術には目を見張るものがある。

上巻のときには所々で単語の棘——ネガティブに傷つくという意味ではなく、文脈からそれた音韻の乱れ——みたいなものが引っかかるが、それらは本作では全くない、一つ一つの言葉の選択がより世界を優しく、烈しく彩っている。戦闘描写は前作に引き続きめちゃくちゃ見事。

とりわけ本作で目立っているのは、前作でなげかけられていた愛とはなんぞや? もさることながら、それ以上に、生きることの難しさを許容しながらも生き続けることへの礼賛歌に思えてならない。上下巻通して見えたヴァイオレット・エヴァーガーデンは、ただの、一風変わった少女だ。この一言に尽きる。ヒト or not ヒトの分岐点が違えただけで、彼女はただの暴力の獣ではない。ヒトとしての優しさと弱さを内包し、それらの露出の仕方を知らないだけの、言葉を知らないだけの、可愛らしいクールな少女。

——ただ、それだけ。

自動手記人形としての彼女のさらなる祝福を願って——

上巻のリンクは『KAエスマ文庫 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 上巻』| 想いを届ける自動手記人形

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