本書は、川沿いの桜並木に佇む「マーブル・カフェ」を起点として、ちいさくて、あったかい物語が連綿と続く色彩ゆたかな一冊。
…
わたしの色ってなんだろう。
色とりどりの物語に佇むキャラクタターたちをはために、わたしは思った。
でも、考えれば考えるほど、わたしを彩っているものたちの源泉は、白い吐息のように空を舞う。
とらえきれないそれらをはために、わたしは首をひねった。
なんでわからないんだろう。
これらがわかったら、わたしはなにか変われるかもしれないのに……
淡い期待を胸に、本書に出てくる登場人物みたいに喫茶店でココアを頼んでみる。
白磁のなかには、陽光に照らされて輝くココアブラウン。表面を覗き込むと、わたしのシルエットがゆらゆらとうごめいた。
ほのかなあまいかおり。
口にはこぶと、やさしさが舌を包んだ。
もう一口。
やっぱりあまい。
ふと、窓の外をながめると、いつもとおなじだと思っていた景色が、少しかわって見えた。
ココアのおかげ?
それとも、本のおかげ?
わたしにはわからないけど、無口なココアは、わたしにとってのマスターだって、そんな気がした。