貧しい人々、その本質は、選り好みが激しく、わがままであるということ。
その言葉が示す通り、本作の人々は、価値観の押し付けがすさまじい。
互いに愛していることを理解して欲しいがための行動の数々は、その実、単なる内面の発露と、自分本位な愛情の押し付け。それは一見、相容れない愛のかたちをおりなしているにも関わらず、それでもなお、互いの存在を必要とする。
いってしまえば、共依存恋愛。相手を自身の外殻へと内包させることで、その存在意義を見出そうとする不健康な形。それゆえ、粒度の高いクオリアを共有し、どんなにひどいことがあっても耐えられ、その反面、見返りがなければ苛立つ。
物語終盤、自身の一部とまで化していたはずのものがその外殻を飛び出してしまったとき、割られた本人は一体どうなってしまうのだろうか......
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本書は、『罪と罰』『カラマーゾフ兄弟』などの著作で知られるドエトフスキーが、若干24才で書き上げた処女作。
文通の形で進んでいく本書の魅力は、ずばり、登場人物の徹底的なまでの実在性。それはまるで、映像として事細かにそこに’いる’かのように錯覚いたしました。ひとえに、ドエトフスキー自身がその痕跡を全く残そうとしない熱量の高さがうかがえます。
後の作品群に見出されるドエトフスキー節の萌芽がかいまみれる本作を、ぜひ手に取って欲しいと思えた一冊でした。