タイタンの妖女

自然界には人間がまだ知らないことが無限にある。かねてより人間はそれを外側の世界へと向けることによって解決しようとしてきた。いったい誰が森羅万象をつかさどっているのか、そして森羅万象はどこにあるのか。それらの疑問は人間には魅力的に映った。

教会は地球は平らだと言っていますが、私はそれが丸いことを知っています。 私は月に地球の影を見てきましたが、教会よりも影を信じています。

フェルディナンド・マゼラン

この最たる人物であるマゼランは、無限の可能性を秘めた外界への採掘者であった。ゆくゆくは宇宙空間まで足を伸ばすことにつながるこの旅路。しかし、地球上でも見られたその果てしない悪夢は、外界に対する魅力を失わせた。次いで、人間は内側への小宇宙に対して視線を向けることで、人生の目的をどう見つけるのか苦心するようになった。いわんや、魂のあり方について考えるようになったのである。

本書は、その魂が観測されていなかった時代に、如何にして人間が魂のあり方に気づいていったのかを詳細に記していった作品である。

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時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは? 巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作を訳も新たにした新装版。(解説 爆笑問題・太田 光)

とりわけ人間のあり方という視点で本書を見た場合、トラファマドール星人にまつわる伝説(p. 387 -)以降の記述は重要であろう。これは、現代におけるAIの登場による人間の余暇時間の増加に通ずる重要な示唆に富んでいる。

他にも、ハンディキャップ理論による進化した本能表現のあり方だったり、ややコミカルではあるが、文明の生まれた理由だったりと、興味がそそられるテーマが数多くちりばめられている。特に、解説の太田 光さんの視点は圧巻。『タイタンの妖女』がガチで好きなのだとビシバシ伝わってくる。

まさに、タイタンの『妖女』の名前を冠するとおり、あやしい魅力に富んでいる本作は必見。

人生の目的は、どこのだれがそれを操っているにしろ、手近にいて愛されるのを待っているだれかを愛することだ

p. 445 

作者: カート・ヴォネガット/浅倉久志
早川書房

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