『余命3000文字』? どういうことやねんと読み進め、そこに記された奇抜な設定が天衣無縫な描写として記されていることに、わっと驚かされた一冊。本書目次(その奇抜さ、奇特さに目を奪われてしまったので記してみる)。
余命3000文字
彼氏がサバ缶になった
心の洗濯屋さん
焼き殺せよ、恋心
私は漢字が書けない
こういう思考の柔軟さ、現実の常識にしばられていない状態に触れれば触れるほど、自分の住んでいる世界とはまるで違った自由度の高い思考の世界——粒度もめちゃくちゃ高い——にあてられ、普段生きている世界が如何に跼天蹐地にして言葉を記すことすら困難になるほどの恐れを抱いてしまった。
ある種寓話で、幻想的で、悪魔的な雰囲気に内包される摩訶不思議なユーモアさ。現実の論理では説明できない、平仄を合わせない、つじつまを合わせない、しかもそれが、この本の世界の中では当たり前のものとして成り立つように仕向かれている伝奇的なのは、/表層的に描写が濃くなる部分があると思いきや、不透明になる部分の塩梅で数々の解釈の余地を残しているのは、これはもう、とんでもない本に出会ってしまった。
一話一話の構成が短い、これがせめてもの救いだった。読み進めるのに耐え難い苦痛を感じるほどのあほらしさという意味ではなく、この本の価値観に同化されそうになる感覚があったからだ。それすなわち、自らの価値観を根底から否定されるような、余儀なくされるような、そういうそらおそろしいものに起因した、恐怖とも、はたまた、怒りとも取れる感覚なのだけれども。
すごい一冊。