夜は短し歩けよ乙女

奇怪な描写と世界観、ぱっと見では素直に受け入れ難い内容の突飛さに頭を抱えながら読み進め、それでもどこか愛らしいキャラクターたちが織りなすどたばた群像劇を楽しめた不思議な一冊。

森見登美彦先生の魅力が詰まった本書を、ぜひ、ご賞味あれ。

あらすじ

「黒髪の乙女」にひそかに思いを寄せる「先輩」が、京都の至る所で彼女の姿を追い求めて悪戦苦闘する道すがら、そんな二人を巻き込む珍事件が次々と起こり……? 果たして「先輩」の恋は成就するのか!?

一押しポイント

本書の魅力、それは、会話のリズミカルさに他ならないでしょう。

「愛に満ちたおともだちパンチを駆使して優雅に世を渡ってこそ、美しく調和のある人生が開けるのです」

「若人よ、自分にとっての幸せとは何か、それを問うことこそが前向きな悩み方だ」

「でも幸せになるというのは、それはそれでムツカシイものです」

地の文のような会話でいて、それでも滑らかにするっと会話が体の中に入り込んでいくのが不思議な感覚なのです。地の文と会話文との描写濃度がほんの一ミクロンくらいの差でしか、いうなら、電子顕微鏡で覗き見るくらい精緻な動作をしないと気付けないくらいの些細なギャップであるのに、それにも関わらず、蠱惑的なキャラクターたちの性分のおかげで、一般的な会話における短めで単調な情報伝達のみに特化したものと比較すると、こういう会話文こそが本作を本作たらしめる要素となっていると思うのです。

最後に

視点があちらこちらに急峻に移動していくため追うのが困難なことがあるかもしれません。それでも、読み終えた頃にやってくる爽快感は何事にも耐え難いもの間違いなしなので、ぜひお手に取られては如何でしょうか?

作者: 森見 登美彦
KADOKAWA

カテゴリー

関連しているタグ

書籍情報