空の境界(上)

新伝綺の旗印として確固たる地位を築いている本作。無機、有機問わず、「活きている」ものの死の要因を読み取り、干渉可能な現象として視認する能力である「直死の魔眼」や「魔術」など、出てくる用語もさることながら、言葉遣いがやたらかっこいいのである。

奈須きのこを奈須きのこたらしめる世界観。それは伝奇ものとして屈指で、非日常的な日常を当たり前の日常として描く上で最高のフォーマットである。 その一端を垣間見るべく本作品のページを繰る。ヒトの心理の奥底に眠る一筋の陰、それを暴かんと相対すは一筋の光陰と陽 、奇しくもメインヒロインの抱く二面性にも通ずるそれらは、宗教、哲学、自然科学、一体どれほど多くのモノに触れれば表現できるのだろうか。

めくる度に新たな色を紡ぐ言葉は、

厳かに、艶やかに、粛々と。
幾度も、幾度も、何編も。
鋭く尖った切先を、心の臓に縫い付ける。

まごうことなき、殺人現場<<リアル>>だった。

読み進めれば読み進めるほどにゆっくりと体内に侵入してくる鋭利な痛み。そのせいか、脈拍が速まり、額に汗がにじみ出る。不快感にも似たそれから逃れようと本を閉じようとする。しかし、ページをめくる手は止められない。

それはただひたすらに、このまま死んでもいいやと思えるほどに、 真っ白な刃を突き刺す犯人がかっこよかったからなのかもしれない。

 

作者: 奈須 きのこ
講談社

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