宇宙の戦士

近年、民間企業による宇宙産業ビジネスの話題はつきない。火星移住計画や、人工衛星を活用したネットワークサービスなど、それらはかつて、ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』に端を発する宇宙進出への手法——大砲の弾に人間を乗せて月までぶっ飛ばすという奇天烈な発想——から、ロケットに形を変えて進化してきた。

このロケットに焦点をあてたとき避けられないのは、兵器運用として開発されていた歴史であろう。ヴェルサイユ条約で大型兵器開発を禁止されていたドイツが、長距離攻撃兵器としての可能性を秘めたロケットに着目したことは、兵器開発の一環としてロケットが大きく進化した素になった。

すべては制御された暴力によって戦争を決着づけるためである。そして、数多くの命がそこで得られる価値の究極の犠牲として支払われてきた——ゆくゆくは宇宙開発へと続くことになる人間の価値探求として。

本書は、こうした、歴史、戦争、政治的なものを勉強する意義を知ることができる一冊であり、特に、学生のうちに読んでおきたいSF小説筆頭。

以下、Amazon商品説明

恐るべき破壊力を秘めたパワードスーツを着用し、宇宙空間から惑星へと降下、奇襲をかける機動歩兵。地球連邦軍に志願したジョニーが配属されたのは、この宇宙最強部隊だった。肉体的にも精神的にも過酷な訓練や異星人との戦いの日々を通して、彼は第一級の兵士へと成長していく……。ミリタリーSFの原点ここに。映画・アニメに多大な影響を与えた巨匠ハインラインのヒューゴー賞受賞作

ジュブナイルの皮を被ってはいるものの、大人でもかなり楽しめる。とりわけ、ハインラインの精緻な描写力による歴史・道徳哲学の授業部分。戦争は暴力によって決着づけられてきたこと、あらゆる統治システムが実際的に継続している理由、市民と国民の決定的な違い。もとろん、道徳哲学の授業なので、それらの解決ではなく思索に重きが置かれている。それゆえ、本書を読み込むにはマッチョな体力が必要だと思う。ただ、読んだときどきに応じて違った視点を与えてくれるので、何回読んでも全く飽きが来ないのがすごい。

いつの日か、宇宙が人間に"価値"を教えてくれる日が来るそのときまで、人間は宇宙に向かい続けるのだろうと知れた一冊。

人間は見たとおりの存在で、あらゆる競争相手に打ち勝って生き延びる意思と(これまでのところは)能力をもつ野獣だ。その事実を受け入れないかぎり、道徳や戦争や政治についてなにを語ろうとナンセンスだ。

p. 283

作者: ロバート・A ハインライン/内田 昌之
早川書房

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