芸術とは、真善美という人間の普遍的な価値において、美を追求するテーマである。もっというと、理性という価値観を超えた絶対世界を指向するものである。
そのため、美の何たるかを説明しようとすることはむつかしい。ただ、あえて述べるとするなら、優れた美とは、悠久の時間と容易に表現できない感動を想起させるとともに、人びとの心を豊かにしてくれるものである、ということだ。つまりは、人格陶冶として究極の目標として美は存在するといってもいいだろう。
古くより、この美に魅了された科学者は少なくない。ピタゴラス、ケプラー、ダーウィンなどはその最たる例であって、美を意識することで新しい発見をした。これらの事実は、科学と美は根深いところで結びついており、新たな気づきや発見に繋げるためには、異なる分野の融合がすることが大事であるという視座を与えてくれる。
本書は、先例に漏れず、芸術と科学の融合によって読み手に新たな気づきや発見を提供してくれる一冊である。理性としての科学が理性を超えた先の美を追求することができるのかどうか、科学の信望者である著者だからこそ成せるテーマ設定——冷凍睡眠、カオス理論、宇宙、惑星消滅を用いたSFという枠組みにとどまらず、読む芸術としての機能を遺憾無く発揮している。
また、本書はSF入門として最適な一冊ともいえよう。というのも、欧米諸国SFのような作品群だと、どうしてもキリスト教的な色合いを帯びてしまい、その前知識を持っていないと読み解くのが困難な場合が多々ある。その点、本書は倫理的にセンシティブなところでも技術スタックのような形式でサクサク読めるので。
総ページ数が500オーバーと割と厚めな本ではあるが、時間を忘れて読むことができる良書。