たったひとつの冴えたやりかた

宇宙探査には、多くの恩恵がある。困難なミッションに取り組むための宇宙システムを開発する中で得られる技術的な知見は、人類に役立つ多くの科学技術の革新をもたらす。そのフィードバックによって、自然についての理解が深まるとともに、社会においても創造的なもを生み出すきっかけとなる。特に、人類の活動領域の拡大は、宇宙において生命がいかに脆弱であること、その中で人類がなしたことや、人類の運命などについて人びとに考えさせる機会を与えてくれる。

本作における未知との遭遇は、その最たる例であろう。理解を超えた価値観を持つエイリアンと近接することによって、人の価値が浮き彫りになっていくのである。それはかつて、人間の価値とは、その人が得たものではなく、その人が与えたもので測られるとアインシュタインが残した言葉を裏付けるかのように。

本著は、”The Starry Rift”という原題で、1986年に発表されたジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(以下、ティプトリーと呼称)の3つの連作短篇がまとめられた作品である。プロローグ「デネブ大学の中央大図書館にて」として、若いエイリアンの学生カップルが”連邦草創期の人間(ヒューマン)の雰囲気をつかみたい”というリクエストを図書館主任司書に投げかけ、司書が薦めた三篇の記録という体裁をとっている。

表題である「たった一つの冴えたやりかた」は、16歳の誕生日に両親から買ってもらった小型スペース・クーペで遠い星々を目指す少女・コーティーが、その道中で頭の中に住み着いたエイリアンとともに冒険する物語。「グッドナイト、スイートハーツ」は、サルベージ船の船長がかつての恋人とそのクローンに出くわす物語。「衝突」は、異星人とのファーストコンタクトの物語。

古き良きスペース・オペラの雰囲気とジュブナイルをまとう本作は、テクノロジーにフォーカスしたハードSFや、ニュー・ウェーブ運動のスタイルを取り入れた作品を書いてきたティプトリーの作品郡と比べると、とっつきやすい部類に該当している。SFを読んだことがない人でも楽しめる一冊。

キャラクターたちを待ち受ける困難は、どれも胸をうつような鋭さをもつ。人類の想像を超えた世界を前にして奮闘する様は、人間の価値を存分に発揮する意義と、その灯火をあなたの胸にやどすだろう。

全体の命運を左右するような大問題が、その瞬間その瞬間には、個人のささやかな行動の上にのっかっているようだった。

p. 367

作者: ジェームズ・ティプトリー/浅倉久志
早川書房

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