「ものの例えとして見せる。霞、女のおまえがこれを裁いて、ゆるせるか」
挑戦的とも言えるお奉行が投げ出したのは、罪を犯した六人の女の調書だった。その娘は身分を偽って女牢に潜入し、六つの怪事件の謎を究明すると、それらの背後には巨大な陰謀が潜んでいた——
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感想(ネタバレあり)
なぜおんなたちは罪を「犯す」に至ったのか、その導線が本作では丁寧に描き込まれ、環境を吟味した上で適正な判断を下すことの重要性が説かれています。
つまりは、お奉行が「性悪説」に比重が置かれている一方で、彼の娘である霞は「性善説」に立つ構図で展開されているのです。
「天下のお仕置きは、みんな、荒々しい、かた苦しい、もののあわれを知らぬ男たちがきめたことです。……人の心をふみつけた、ばかばかしいきまりをつくったものだと思うこともありますわ」
そのように霞が述べた通り、相手の内面へとするりと距離感をつめていけるのも、おんな主人公だからこそ取れる最良の設定だと思えました。
天下の静謐を保つために決められた現実に争うおんな主人公の生き様は非常に痛快です。
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序盤に出てくる、「山内伊賀亮」の単語が出てきた瞬間にピンとくる人も少なくないかもしれません。まさしく、本書は「天一坊事件」にまつわる創作です。
物語が最後で一つに繋がるさまに、刮目せざるを得ませんでした。