音訓読み。これは日本語を日本語たらしめている言葉です。「母」という言葉をとっても、「お母さん」、「祖母」、「雲母」、「母屋」といった具合に、様々な読み方が存在します。極め付けはオノマトペと称される存在です。音律の違いから生み出される細かいニュアンスの違いは、受け手に対してより感性に従った動きを見せるのです。
百人が百通りの言葉でもって自分を表現することができる日本語ですが、一方で、英語はそれができません。言語の特性上、"I love you."は"I love you."以外の何者もなく、「月が綺麗ですね」というニュアンスは持ってこれないのです。
このように、言葉一つとっても文化圏で意味合いが大きく異なってくるわけですが、本書では、言葉とは何か、この根源的で正解のない問いに対して真正面からぶつかっています。著者の丸山圭三郎はソシュール研究の第一人者であり、ソシュール入門書としての色合いが強めです。
本書を通して、言葉の力を知れること間違いありません。
目次
I 言葉と文化 II 言葉とは何か
言葉は、それが話されている社会にのみ共通な、経験の固有の概念化・構造化であって、外国語を学ぶということは、(中略)今までとは全く異なった分析やカテゴリー化の新しい視点を獲得することにほかなりません(p. 17)。
「言葉=視点」ということついて、わかりやすい事例を用いて例えられているI章は、ある種、単語と意味を1対1対応させて覚えさせ、そこに一切の文化的背景を介在させない義務教育式外国語学習に対するアンチテーゼにもとれた(もちろん本質はそこではないが)。特に、日本語の構文で話そうとして赤っ恥をかいた方の話は興味深かった。
II章からは、言語研究についての歴史を語る項目であるが、
言語の起源を探ることが、(中略)ごく身近な言語状況から出発して言葉の本質を見極め、言葉を根底とする文化の構造、そして人間の存在の意味を問い直す作業にほかなりません。(p. 48)
取り分け、ソシュールを語る部分では、現代の自然言語処理に通ずる部分があって非常に興味深いです。
全体を通して、具体的な例を平易な語り口で噛み砕いて説明しているので、ひじょーに読みやすい作りとなっています。