相反する存在同士の邂逅と、成長。
ヒロインの落ち着いている雰囲気もさることながら、本作の時代設定がはらんだ病いを的確に捉えている:GOSICKに込められた両義性を、タイトルから強く感じ取れる一冊でした。
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久々に軽めな推理小説を読みたいなと思って本屋をウロウロしていたら、10年前くらいに読んだきりの『GOSICK -ゴシックー』が目に入り、懐かしさを覚えつつ手に取ってみました。
昔は、『ヴィクトリカかわいいっ』という感想ぐらいしか書けませんでしたが、いろんな小説を読んだ今だからこそまた違った発見できるのかなと読んでみると、やはり『ヴィクトリカかわいいっ』再び。全然変わってない!というツッコミで終わらせたらせっかく買った本が泣いてしまうので、しっかりと『GOSICK -ゴシックー』に対峙します。
しかし、推理小説が読みたいモチベから始まっていながら推理部分を記述すると「GOSICK」成分が薄まってしまう絶望にぶち当たり、推理部分は除外して「GOSICK」にフォーカス。
「GOSICK」に関しては、ゴシック(Gothic)の同音異義語で、まずはゴシックとは何かについて。
ゴシックとは、そもそも12世紀の北西ヨーロッパに生まれて、15世紀まで続いた建築様式であり、そこから哲学や政治、文学の領域へ発展した概念。その潮流から細かく枝分かれして神秘的、退廃的なイメージが生まれ、かなり多義的な印象です。
18世紀から19世紀はじめに流行ったゴシック小説も、中世ゴシック風の屋敷や城、修道院を背景に、超自然的なものや、迫害される人物が主体。
また本作の年代設定に付随して、作者が編集者との打ち合わせで『GOSICK -ゴシックー』のモチーフを決めた際、
舞台はヴィクトリア時代でヒロインはとても小柄。 ——『桜庭一樹日記Black and White』
とあります。
本作は1924年設定なのでヴィクトリア時代の後、架空の時代設定でヴィクトリア時代のゴシックを継承する想像。ヴィクトリカのゴスロリ描写も例に漏れず。
また本シリーズでは、オカルトVS科学の対応関係で、ゴシック小説に見られるような迫害される人物をテーマに据えています。ヴィクトリカを獣に喩えて人間性を否定、主人公は栗鼠に喩えられかわいらしさも描写。
両者の対比、相互補完しながら物語の核心へと進む様は、GOSICKに込められた両義性を強く感じられる一冊です。