大学近くのファミレスにて、僕と薫が昼食をとっていた最中の出来事。
「こらっ、何回言ったら分かるの!」
店内に響き渡る母親の声、そして、それに合わせて泣き叫ぶ子供の声。子供の年齢は、2, 3歳くらいだろうか、口元にスプーンで無理やり食事を突きつけられては、それを手で叩いて跳ね除けていた。
「なんか、あーいうのって嫌ね」
薫は対面に座っていた僕に顔を近づけると、半ば半狂乱と化していたテーブルに目配せし、小声で話しかけてきた。
「仕方ないだろ。あの時期の子供っていうのは母親の気持ちなんてお構いなしに年中無休で泣け叫んだりするんだから、ヒスりたくもなる」
「そうだけどさぁ……私だったらああいう風に叱らないかなぁ」
「例えば?」
「『私が嫌だから止めてほしいな』とか」
「そんなこと言ったところで意味あんのか?」
「最初の内は自分の気持ちを伝えてあげるんだけど、次第に周りの人に迷惑がかかるからだめって伝えてあげるかな」
「ふーん」
「ふーんって……なんでもかんでも駄目、駄目って言ってこっちの都合を押し付けたってさ、その行為に曝された子供が自分の居場所はここにはないんだっていう疎外感を抱くのは、あんたも十分理解してるでしょ」
「理屈は分かるが……単純に好き勝手やらせてもいいってわけでもないだろ」
「それはそうだけど……むー」
薫はクリームがたっぷりと乗っていた飲み物を口に含み、膨れっ面。
「あーあ、早くいい人見つからないかなー。そうすれば子育ての大変さがわかりそうなんだけどなー」
「お前じゃ無理だろ」
「あ?」
鋭い眼光に睨まれながら、二度と薫を怒らせないようにと意気込んだのはここだけの秘密だ。