星を継ぐもの【新版】

5~4万年前といえば、地球ではホモ・サピエンスが繁栄への道をたどっていた。しかし、共存していたネアンデルタール人は絶滅してしまった。この歴史上の大事件は、現在、旧石器時代の遺跡発掘を介して目下研究されているが、自然の中に埋もれた古代の残しから人類の歴史を解き明かすことは、およそ一筋縄にはいかないと想像にかたくないだろう。

出土した多くのものが新たな「発見」を生み出す。そして、新たな「発見」をもとにさらなる「発見」がなされる。この一連のプロセスが考古学研究活動の根底にあり、そして、本書『星を継ぐもの(原著: Inherit the Stars)』(1977)において、それはSFミステリーという様相で読者自身が「発見」することができる。

月面で発見された5万年前の死体はどこからやってきたのか? 謎が謎を呼び、それが紐解かれていく過程はミステリーものとしてめちゃくちゃ面白い。小出しにされていく論拠に「そこまで言い切れる理由なくね?」ってツッコミを入れながら、「その理論なら、こっちの方が正当性あるな」って仮説・検証立てて読み進められるのも楽しい。そのため、最後の最後まで主題に沿った展開であるにも関わらず、ワクワクしながらページを繰ることができる。疑問が解決されたあかつきには、ああ^〜ってなること間違いない。

本作の魅力は、ミステリー、それ自体のジャンルに内包された娯楽性に加えて、問題解決へと至る過程で利用される科学技術の描写にもある。というのも、ハードSFの名を冠するとおり、めちゃくちゃディテールに富んでいるのだ。その分、科学面の偏重の業というべき、浅い人間描写、科学知識のアイデア解説終始を担ってしまってはいるが、それは主題の壮大さの前には瑣末な問題になろう。

5万年前の死体は、ゆくゆくは、人間がなぜ地球上の他の動物と違うのかを浮き彫りにしていく。ハードSF+ミステリーの真髄が本書にはある。

著者である、ジェイムズ・P・ホーガン(1941 - 2010)はイギリスはロンドン生まれのSF作家。かつて、アメリカ合衆国を代表したコンピュータ企業であるDEC(Digital Equipment Corporation)のセールスエンジニアとして働くかたわらに、本著でデビュー。ハードSFの巨匠として日本では星雲賞を3度にわたって受賞。

デビュー作としてハードSFをもってくる漢気には惹かれるものがある。

作者: ジェイムズ・P・ホーガン/池 央耿
東京創元社

カテゴリー

書籍情報