ロボットが人間の仕事を奪っている世界において、そこで爪弾きにされた/されうる人間はいかに立ち回るべきなのでしょうか。
懐古主義を掲げることによってなけなしの抵抗をするのか、はたまた、新世界の獲得を目指すのか。
どの選択をとるにしても、高度に複雑化した世界は、より単純だった時代の幻影を慈しむ人物が生まれる理由へと変貌を遂げることでしょう。
そんな未来が描かれた本著は、1953年と半世紀以上前に掲載された作品にも関わらず、現代社会における2045年問題のシンギュラリティを考える上で貴重な視点を与えてくれるポジションに立っており、SF小説は、未来を見渡す力・思考力を与えてくれることを力強く感じさせてくれる一冊です。
あらすじ
警視総監に呼びだされた刑事ベイリに待ち受けていたのは、宇宙人惨殺という前代未聞の事件だった。地球人の子孫でありながら、今や支配者となった宇宙人に対する反感と、人間から職を奪ったロボットへの憎悪が渦まく鋼鉄都市へベイリは身を乗り出すが——
所感——AIとの共存
本書を読む上で重要な概念は、以下の「ロボット工学三原則」です。
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。またその危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、このかぎりではない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。
本作は、これらから生み出される矛盾をどのように解釈するのか、そして、地球をいかにしてC/Fe社会へと転化させるのか。つまりは、人間とロボットの二つを、どちらか一方の優越を認めず、完全な結合とする現代社会をどのように生み出すのかどうかが鍵を握っています。
この両者を結合する視点は、現代社会において「人間とAIの関係性」へと置換でき、ロボット、ひいてはAIが仕事を「奪う」のでなく、AIと「共存する」ということの重要性が見て取れるでしょう。
具体的には、Amazonの物流拠点におけるロボティクスの導入——商品をピッキングしていた作業員は数百台のロボットを管理する新しい仕事についている——からもわかります。そこでは高度なAIを駆使するために「専門的な知識」が必要とされず、むしろ、「広範な判断知識」が求められています。つまりは、AIをコントロールする上で大事なことは、ある種一点に尖った人材よりも、文系・理系の垣根を超えた「総合的」な人材だというわけです。
このような人材に求められる価値判断の素養を育む意味合いにおいても、本著は重要な役割を担ってくれること間違いありません。