なめらかな世界と、その敵

目まぐるしく変遷する世界観。それを理解するために読み続け、自身の内部感覚を幾重にも積んでトレースし、しかして、気づいた頃には多対一方向への調和。

「なめらかな世界と、その敵」この表題作から漂う並々ならぬ気配。それはまるで、触れたもの全てをSF沼の奥底へと引きずり込むような衝撃。

並行世界/私=「私」?/時間遡行/福音/AI/クランチ/

SF好きの、SF好きによる、SF好きのための小説でもあるし、SF好きを増やすべく間口を広げている小説でもあります。とりわけSFのバックボーンに薄い人は、巻末に綴られたあとがきにかえては、何が何でも絶対に、目を通すべきです。筆者のSF遍歴と、情熱が、これでもかと詰まっているので。

収録作一覧

なめらかな世界と、その敵
ゼロ年代の臨界点
美亜羽へ贈る拳銃
ホーリーアイアンメイデン 
シンギュラリティ・ソヴィエト
ひかりより速く、ゆるやかに

個人的に「ゼロ年代の臨界点」の筆圧には目を見張るものがありました。なんというか、親殺しのパラドクスを消化するためにSFが通過しなければならない限界点——ある種SF殺しのパラドクス——をふと感じたのです。

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僕もSFは好きで、学生時代は、アーサー・C・クラーク、ロバート・A・ハインライン、アイザック・アシモフ、ジェイムズ・ティプトリー・Jr.、筒井康隆など、ご飯を食べる時間を削って貪るように読み漁った経験があり、小説を読む上で基礎体力をつけさせてもらった作品が多いのです。最近はめっきりSFから離れてしまっていましたが、本作を通じてSF熱が再燃。あの頃の情熱的な日々を思い起こしてくれたのは感謝しかありません。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ  —— オットー・フォン・ビスマルク

作者: 伴名 練
早川書房

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