水の精(ウンディーネ)

水の精(ウンディーネ)。それは、人のかたちをしていながらも、人の魂をもたない伽藍堂。物語序盤においては人の気持ちが理解できない故に、自分本位の行動をとったり、興味を引いてもらうような無邪気さが演出されます。

しかし、一人の人間とまことの愛を交わしたことで魂を得たウンディーネは、物語が進みにつれ、人同様に悩み、苦しみ、精霊として生まれた宿命と愛の間で板挟みにあっていきます。

本作は、そんな彼女に訪れる変化——赤子が、思春期を経て、人の痛みを知るに至る過程に似た——を精妙に描き切っています。

と、一見、人魚姫みたいな「メルヘン」チックな物語とみせかけ......

第十三章 リングシュテッテン城での暮らし

その序文にて、この物語に対して、作者が見解を提示するという違和感が生じます。

物語へと感覚を同化させていく上で不必要なメタ要素を、何故わざわざ書き記したのか?

「寓話」として物語を描き切るなら、比喩によって、暗示的に示すことが是なのでは?

この部分こそ、作者の描きたかった部分であり、「自叙伝」的な色彩であったのではないでしょうか。

基底とされるテーマは、ある種、勧善懲悪に似たものであるのですが、それ以上に、この物語を通して、作者自身の人生への贖罪というか、諦念を感じずにはいられない。

そんな一冊です。

作者: フケー/識名章喜
光文社

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