宇宙墓碑 現代中国SFアンソロジー

中国広州市生まれ、英国在住である倪雪婷(ニー・シュエティン)が編纂した本作は、新進気鋭の作家から50年代生まれの作家に至るまで、幅広い世代が層をなしている。それに付随してSFの内容もまた多岐にわたり、宇宙やタイムトラベル、冷凍睡眠、人格コピー、ゾンビなどなど。オーウェルやディックといった英米SF作品の影響を受けつつ、そこに中国のトレンドである「国潮」──中国伝統文化と現在の潮流を組み合わせて商品にトレンド感を出すもの──という要素が加わることで、読み応えは抜群。中国SFの知名度でいえば劉慈欣の『三体』が群を抜いている空気感が支配的だが、そういった雰囲気をいい意味でぶち壊してくれる役割を本作は担っている。

どの作品も粒ぞろいだが、個人的におすすめなのは王晋康「アダムの回帰」。

舞台は、超低温冷凍法によって星間航行が実行可能となった世界。ただ、その旅路は人の脳の臨界値(70 - 80 年)を超えた際の予防策が確立されておらず、困難を極めるものであった。そんななか、200 年のときを経て地球型文明の探査から帰還した主人公、王亜当ワン・アダムは、人体に第二知能を埋め込んだ新智人時代が到来したことを目の当たりにする。第二知能によって、人間の脳は 10 の 13 乗倍レベルまで拡張されており、人間が自負する創造的思考や直感といったものは遠く及ばないものとなっていた。自然人としての矜持を捨てきれない主人公であったが、彼の元に第二知能を埋め込む機会がやってくる。果たして彼が選ぶ決断とは——

作品のなかには、南京大虐殺をモチーフとした作品があったりするので、読み手に烈しい感情を想起させることがあるかもしない。いわんや、昭和史のタブーではあるが、辛い現実から目を背けてはいけないという戒めがあることは確かだ。歴史は風化させてはならないという教訓。中国SFから垣間見えるのは、そういう、過去から連綿と続く人類の歩みへの敬意だ。

作者: 倪 雪婷/立原 透耶/阿井 幸作/齊藤 正高/大恵 和実/根岸 美聡
早川書房

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作者: 倪 雪婷/立原 透耶/阿井 幸作/齊藤 正高/大恵 和実/根岸 美聡
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