弊機あるところに事件あり。てな具合で、今作も厄介な騒動にまきこまれた弊機こと警備ユニットは、持ち前の冷静沈着な状況分析能力と行動力を活かして大活躍する。顧客を絶対守るマンと化した警備ユニットは誰にも止められない。
今作『逃亡テレメトリー』は、《マーダーボット・ダイアリー》シリーズの邦訳第三弾だ。表題ノヴェラ「逃亡テレメトリー」に加え、短編「義務」「ホーム——それは居住施設、有効範囲、生態的地位、あるいは陣地」を収録している。ノヴェラ+短編2本の分量なので全体は250頁弱ほど。なので、スキマ時間でもサッと通して読むことができる。もちろん、分量が薄いからといって内容もめちゃくちゃ薄いとかいうことは断じてない。むしろ、濃すぎるくらいだ。
一作目の悪徳企業の陰謀、二作目の異星遺物の脅威に続き、今作は、警備ユニットが身を落ち着けている場所で殺人事件が起こる。そこでは滅多に殺人が発生しないこともあり、悪徳企業の脅威が完全に消えてない疑惑が浮上する。警備局と共同で事件を調査することになった警備ユニットだが、なかなか協力関係を構築することができない。というのも、この警備ユニット、過去に暴走して大量殺人を起こしたことがあるからだ。その原因は内蔵の統制モジュールを警備ユニット自身がハックしたことで解消されていたが、また再び暴走するのでは、という恐れが警備局員に広がっていた。そのため、はじめのうちは管理者権限でなく限られた捜査リソースでの調査を警備ユニットは余儀なくされていた。
しかし、そんな状況でも活躍できてしまうのがこの警備ユニットの魅力だ。ひとつひとつ謎を解決していくなかで徐々に信頼を勝ち取っていくことに成功する。この一連の——警備ユニットがSFガジェットを駆使して困難を解決、そして人びとに受け入れられていく過程は《マーダーボット・ダイアリー》シリーズを通して一貫しているが、今作では特に、ミステリー要素が全面に押し出されている。警備ユニットと一緒にストーリー展開を紐解いていける楽しさが警備ユニットの魅力と組み合わさることで、奥行きのある読後感が生み出されること間違いない。
併録されている「義務」は、統制モジュールをハックしたあと、それを隠したまま採掘現場で警備ユニットとして業務に従事していた頃の話。「ホーム——それは居住施設、有効範囲、生態的地位、あるいは陣地」は、警備対象であるメンサー博士目線での物語。警備ユニットに助けられた彼女が、警備ユニットを難民として受け入れられるように交渉を重ねるエピソードだ。警備ユニットは単なるものではなく、感情や知性をもつ存在として語られる。
続編が刊行予定ということなので、続報に胸が高まる。