RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる

本作は、「知識や経験の幅を広げる」ことこそが、複雑化する世界をうまく渡り歩くために重要であると示した一冊となっています。著者はデイビッド・エプスタインというアメリカの科学ジャーナリストで、元スポーツ・イラストレイテッド誌シニア・ライターとして、スポーツ科学、医学分野を担当し、調査報道で著名な方です。もともと科学調査船で仕事をしていましたが、『科学者ではなく、物書きになりたい』という確信から執筆の世界へと移動していた人物で、著者自身が幅の広さや遅めの専門家の重要性について実体験しています。

本書目次

はじめに タイガー・ウッズ vs ロジャー・フェデラー
Roger vs. Tiger
第1章 早期教育に意味はあるか
The Cult of the Head Start
第2章 「意地悪な世界」で不足する思考力
How the Wicked World Was Made
第3章 少なく、幅広く練習する効果
When Less of the Same Is More
第4章 速く学ぶか、ゆっくり学ぶか
Learning, Fast and Slow
第5章 未経験のことについて考える方法
Thinking Outside Experience
第6章 グリットが強すぎると起こる問題
The Trouble with Too Much Grit
第7章 「いろいろな自分」を試してみる
Flirting with Your Possible Selves
第8章 アウトサイダーの強み
The Outsider Advantage
第9章 時代遅れの技術を水平思考で生かす
Lateral Thinking with Withered Technology
第10章 スペシャリストがはまる罠
Fooled by Exper tise
第11章 慣れ親しんだ「ツール」を捨てる
Learning to Drop Your Familiar Tools
第12章 意識してアマチュアになる
Deliberate Amateurs
おわりに あなたのレンジを広げよう
Expanding Your Range

現代の課題、それは、世界とテクノロジーが相互につながっていくことによって、さらに大きくなり、ブラックボックス化が加速していることでしょう。そのような世界を紐解くためには、より多くのパラメータが必要となります。もちろん、ゴルフやチェスなど繰り返しの経験パターンが求められる世界では、専門的に特化した、ある種単一パラメータによる早期教育がものをいう世界もありますが、その一方で、ますます拡大する世界においては、多様な経験や分野横断的な思考をどのように維持するかどうかが重要なのも事実です。

先行きは不透明で、経験によって「間違った学び」が容易にフィードバックされるような危うさがちらつく現代において、

「片足を別の世界に置いておくこと」[1]

これを念頭に置いて、昔ながらの間違った「悪習」を「避ける」暮らしをしていきたいものです。

[1]E. Dane, "Reconsidering the Trade-Off Between Expertise and Flexibility", Academy of Management Review 35, no. 4 (2010):pp. 579-603.

作者: デイビッド・エプスタイン/中室 牧子
日経BP

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