本書は、アイヌ民族のなかで口伝えに継承されていた神謡13篇が編まれた作りとなっています。言葉の節々から感じ取ることができる、やわらかさや、いきいきとした文体、韻の踏み方は、読むものにアイヌの息吹を吹き込む詩才に満ちあふれており、また、自然崇拝や勧善懲悪といった人としての道徳観を兼ね揃えた啓発書としての一面も覗かせています。
本書目次
梟の神の自ら歌った謡「銀の滴降る降るまわりに」
Kamuichikap Kamui yaieyukar,“Shirokanipe ranran pishkan”
狐が自ら歌った謡「トワトワト」
Chironnup yaieyukar,“Towa Towa to”
狐が自ら歌った謡「ハイクンテレケ ハイコシテムトリ」
Chironnup yaieyukar,“Hakunterke Haikoshitemturi”
兎が自ら歌った謡「サンパヤ テレケ」
Isepo yaieyukar,“Sampaya terke”
谷地の魔神が自ら歌った謡「ハリツ クンナ」
Nitatorunpe yaieyukar,“harit kunna”
小狼の神が自ら歌った謡「ホテナオ」
Pon Horkeukamui yaieyukar,“Hotenao”
梟の神が自ら歌った謡「コンクワ」
Kamuichikap Kamui yaieyukar,“Konkuwa”
海の神が自ら歌った謡「アトイカ トマトマキ クンテアシ フム フム!」
Repun Kamui yaieyukar,“Atuika tomatomaki kuntuteashi hm hm!”
蛙が自らを歌った謡 「トーロロ ハンロク ハンロク!」
Terkepi yaieyukar,“Tororo hanrok hanroku!”
小オキキリムイが自ら歌った謡「この砂赤い赤い」
Pon Okikirmui yaieyukar,“Kutnisa kutunkutun”
獺(かわうそ)が自ら歌った謡「カッパ レウレウ カッパ」
Esaman yaieyukar,“Kppa reureu kappa”
沼貝が自ら歌った謡「トヌペカ ランラン」
Pipa yaieyukar,“Tonupeka ranran”
この本の真価が発揮されるのは、ローマ字に起こされた言葉を自分の口でなぞりながら唱えるときにあるでしょう。神謡の奥底に眠る精神性であったり、豊かな大地と共に生きることの力強さをありありと感じること請け負いです。
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口伝え、つまりは閉じた世界でのみ継承されてきた伝統を文字に残すことで外向けに発信する。その意欲と、熱意は、今日の伝統文化の継承においても参考になるでしょう。
19歳という短い生涯を終えた知里幸恵ですが、絶滅の危機に瀕していたアイヌ文化を救うきっかけにもなった本作の功績は、死してなお輝きを失うことを知らず、人々の暮らしにアイヌの魅力を伝え続けるに違いありません。