ロボット・アップライジング

ロボットは長らく、技術の象徴としての位置付けであった。しかし、ROS(Robot Operating System)の登場、急速な技術キャッチアップ、ハードウェアのコモディティ化によって、技術要素それ自体よりも「ロボット活用を通じた価値創造」へと重要度がシフトしてきていることは、近年のAI活用ロボットの登場からも見て取れる。AIで家具を認識して掃除が可能なルンバや、「愛を持ったロボット」をコンセプトとするPepperなどはすでに、身近な存在になりつつあるのだ。

ロボットという言葉をきくと、上記以外には、SFやマンガで登場するロボットを思い浮かべることもあるだろう。『鉄腕アトム』や『ドラえもん』といったものが代表的に挙げられるように、ロボットといっても多種多様な用途で存在するのである。そこで、ロボットの原義について触れることによって、その中で共通するロボットのアイデンティティーを明確にしていくことにする。

ロボットという言葉はもともと、1920年にチェコの作家カレル・チャペックによって発表された戯曲『R.U.R』によって初めて使われた。R.U.Rとは、作品内に登場するロボット製造企業であるロッサム万能ロボット会社(Rossum’s Universal Robot)を指し、チェコ語の「ロボタ(robota)」=「(強制的な)労働」という意味からつけられたとされている。

ロボットが歴史上初めて生まれた場所で労働を意味していたというのは非常に面白い。前述のロボットたちも確かに、人間の労働を肩代わりしてくれるものとしてロボットの語が使われていることはイメージしやすいだろう。

コンピュータ数値制御によって同一工程を繰り返していただけのロボットは、いまやAIの登場によって、その様相を大きく様変わりさせている。ただ、それと同時に、自己意識を持つロボットが暴走して、人間に反逆する可能性に対する恐怖——現在のAIに対する脅威認識の一部——が表出したことは、記憶に新しい*1

本書は、この労働としてのロボットが本来のあるべき姿を逸脱して人類に反旗を翻したときの世界の様相を描いた13の話がまとめられている一冊だ。高度な技術におぼれた人間の傲慢さは『バベルの塔』のようにユーモアにあふれ、また、宇宙の真理に至る物語すらある。個人的に超おすすめなのは、渡邊利道氏の解説。まーじですごい。これを手元に置いていつでも読めるように購入できるレベルで。

AIが絶え間なく進化しているいまだからこそ読んでおきたい良書。

しかし神は、いや増しに恵みを賜う。であるから、「神は高ぶる者をしりぞけ、へりくだる者に恵みを賜う」とある。

 

(ヤコブの手紙4章6節)

*1) アメリカの非営利団体であるFLI(Future of Life Institute)が対話型AIについて少なくとも半年間は開発を中止するよう求める署名活動をオンラインで開始した。

作者: D・H・ウィルソン&J・J・アダムズ/中原 尚哉他/A・レナルズ、C・ドクトロウ 他
東京創元社

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