『ニューヨーク・タイムズ』のドナルド・キーン

本書は、日本文学者ドナルド・キーンが、『ニューヨーク・タイムズ』に寄稿したエッセイ27編が綴られた一冊となっております。具体例を通してhow to レビューを学ぶことができるので、レビューを始めてみたいけど、何から書き始めるべきかわからない。と、悩んでいる方に最適な一冊となっております。

レビューの心得とは?

レビューの心得として、本書全体を通して感じたのは、

苛烈なまでの批判的描写が多くなってきた場合、その量に応じて魅力的な側面を列挙する塩梅を見定めること。その逆も然り。

ということです。

加えて、論理構成が間違っているからといって、それを記した著者自身に不名誉なレッテルを貼り付けて喧伝する「人格攻撃にシフト」するのではなく、あくまで、論じられた対象物のみにフォーカスを当て、著者に最大限の敬意を払っている部分が素晴らしいのです。

意見の食い違い、それ即ち、相手にヘイトが向くような短絡的な発想はやめて、一人の人間として互いを思いやる精神で相互作用していきたいものです。

おすすめエッセイ

個人的に作者の熱量を感じたパートは、ミシマ——追悼・三島由紀夫(p. 133)

…恐ろしい信じがたい状況で突然死んだ時、いったい何が言えるというのだろうか。

これはエッセイの冒頭部に綴られた一文です。

この文章に、当該パートを読み終えてから立ち返ったとき、10数年来に渡って三島の友人であった作者のコンテキストを感じ取ると、悲哀以上に心にぐっとくるものがありました。

それほどまでに、三島に対する肩の入れ具合が凄まじいのです。

このパートだけは是が非でも読んで欲しいです。

所感

他にも、日本人の、簡素、暗示、そして果敢なさについて描写した場面(p. 40)には日本人の美意識を再認識したり、近松門左衛門の実と虚における記述(p. 52)にはエンターテイメントの本質を知ることができます。

本書を通して触れられる新たな日本の魅力に、感動を覚えること間違いありません。

丸山圭三郎先生の 『言葉とは何か』にあるような、外国語を学ぶということは新しい視点を得ることを地で行っている作品でした。

 

作者: ドナルド・キーン/角地 幸男
中央公論新社

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