本書は、スピリチュアル・ビジネスの実例を通して、スピリチュアリティを批判的に見るための視座を提供してくれる一冊となっています。カルトや、スピリチュアル・ビジネスにハマりやすいタイプに該当する4つの脆弱性や、スピリチュアリティに依存しない社会を構成するための考えなどを通して、柔軟な思考を持つ重要性を知れます。
目次
第1章 取引するカミサマ
第2章 統一教会と霊感商法
第3章 宗教と金の関係
第4章 癒しのバザール
第5章 スピリチュアリティ・ブームに潜む罠
スピリチュアル・ビジネスの問題点
スピリチュアル・ビジネス商法の孕む問題点は、
顧客となった人々のリスク認知を操作して特異な問題解決の利得を得るためには損失をも厭わない心境にさせたうえで、様々な商品の購入を勧める特異な方法(p. 238)
となります。これの怖いところは、顧客がエンターテイメントの範疇で楽しめる分には問題ありませんが、悪徳商法に見られる「特殊な洗脳文法」によって認識や言語体系そのものが陵辱され、自縄自爆状態へと陥ってしまうことです。マインドコントロールされることによって、危ないものを危ないものとして識別することができなくなる怖さは、霊感商法は生きている(p. 64)の項に詳細が載っているので必見です。
「唯一の自己像」に固執しない
そもそもなぜ、人々はスピリチュアルにハマるのでしょうか。「あなたの前世は〇〇」「あなたは実は〇〇な人なんだ」と言ってもらいたい人が多いのはなぜなのでしょうか。それは達成願望を満たすことによって、理想的な「自己」と、現在の「自己」とのギャップを埋めるための推進力獲得を目指しているからです。
人なら誰しも、「自分ならもっとできる」、「こんなものじゃない」といった理想を思い描くものです。ときには、実現不可能な挫折感を味わったり、自分と同じような年代の人々がSNSメディア上で活躍する姿を見て、ルサンチマンの感情が喚起されやることもあります。
これらのネガティブな要素は、スピリチュアル・ビジネスが食い込むチャンスとなる一方で、本当の自分——他者との関係性を通して見出すもの——を考えるよい機会でもあります。つまりこれは、自己実現をする場をSNSメディアを通して容易に創造することができ、承認してくれる他者を獲得しやすくなったことを指します。そうすることで、抽象的な自己満足のループから抜け出し、より具体性のある柔軟な思考を得ることができるようになるでしょう。
所感
統一教会周りの諸問題を知りたくて手に取ったのですが、メディアに潜むスピリチュアル問題や、潜在的な脆弱性を知ることができたのは想定外。極めて冷静な俯瞰視点から諸問題を観れるので、非常に読みやすかったです。