大学近くにできたスイーツ食べ放題の専門店にて。
艷やかな金色ショートボブに鋭い目元、淡い色の口紅、スリムな体躯、さながら、キャットウォークから飛び出してきたモデル——実際は3食カップラーメンでもおっけーなグータラ女——のような女の子が、窓際の席に座っている。
その頬にはチークの代わりにクリームが付き、フォークを片手に机の上に間隙無く置かれたスイーツを狙う目は、他の客も怯えて逃げ出すほどの眼光を宿している。
かといって、口いっぱいに詰めたスイーツで膨らんだほっぺたが小動物的な可愛さを担っているものだから、近寄りやすいのか近寄りがたいのかよくわからない。
ただ一つ言えることがあるとすれば、テーミス像が左手に両皿天秤を持ち右手に剣を携えて正義を象徴しているならば、薫は左手にフォーク右手にナイフという出立ちで食欲を表徴しているということだ。
「ふぉれおいひー」
「ちゃんと飲み込んでから話さないと何言ってるかわからん……」
「あんふぁもたべなふぁいよ」
「聞いちゃいねぇ……」
ダイ○ンもびっくりな吸引力で消えていくスイーツに僕は半ば気圧されながらも、一口サイズ大のケーキをゆっくりと味わいながら食べていく。
宝石のような装飾が施されたケーキにフォークを入れるたびその断面から芳醇な柑橘類の香りが漂う。
口に含むたびにじんわりと口腔に広がる味は、甘すぎず、それでいて軽すぎない、絶妙なバランス。
値段の割には随分と満足感のある品々だった。
「あー美味しかった」
薫は満足したのか、お皿の上に乗っていた満漢全席を平らげフォークを置くと、ぷっくりと膨らんだお腹を擦りながらおよそ年頃の乙女が発してはいけないげぷぅという音を吐いた。
「よくそんなに食べられるな」
「甘いものならいくらでも入るわよ」
「すげーな……で、味はどうだった?」
「どうって、すっごく美味しかったけど?」
「それは分かるが……もっとこう、他にだな」
「あんた、いちいち殊勝なコメントなんか考えてんの?」
「別にいつも考えてるわけじゃないが……じゃあ、この前行ったパンケーキ屋のことだけど」
「ああ、あそこね。あれは、こう、すっごく美味しかった!」
「……あのなぁ」
「いーのいーの、細かいことは気にしない。私が美味しかったんだからそれでおっけー」
「さいですか」
まあ、いろんな楽しみ方があっていいとは思う。
現に、薫が美味しそうに食べている姿から言葉以上の美味しさオーラを感じていたのはここだけの秘密だ。
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きょうの一冊 『コメント力』
齋藤孝
ちくま文庫