モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)

AIが必要以上に知能を得て人間の管理するところから逸脱したとき、電脳世界はどのように形作られるのか。この問いかけこそ、本シリーズを紐解く上で重要な要素となっている。

本作の設定からおよそ15年前、『ニューロマンサー』で描かれた世界にてAIが知性を獲得したことで、もっというと、チューリングによる監査(*1)を逃れられる術を身につけたことで、電脳世界に変化が訪れた。それは、(電脳世界)=(人間のシステムの総数)として規定されていたはずの世界は、実は、総数+αのであったという気づきを与えたのだ。その+αとの邂逅は、電脳世界に<<神性>>を受け入れる器としての機能をもたらした。その結果として、前作の『カウントゼロ』から続き、ブードゥーの神々の言葉を下すことができるアンジィは電脳世界に福音をもたらす存在となる。その一方で、<<神性>>へとリンクすることができることは、財閥テスィエ=アシュプールの一族である3ジェインの嫉妬を買うことにもつながった。

とりわけ本作は、この3ジェインの思惑によって様々なイベントが引き起こされるので、本筋を見失いがちだ。加えて、前作・前々作を読んでいない限り、電脳世界にはびこる神々の存在理由が不明瞭になるので、読み進める難易度はかなり高い。特に、第一作目の『ニューロマンサー』は、3部作の中でも屈指の読了難易度を誇っているので、

呑みこめない言葉や構文がでてくるけれど、さえぎらないようにしたほうが話が簡単だということ

—— 21 アレフ

みたいな感じで、全体を理解するというより、文脈から何かしらの意味を引き出して、わからなかった部分は飛ばすといいと思う。そうすれば、サイバーパンク特有の音韻や用語に徐々に慣れてくるだろう。

ぜひ、スプロール・シリーズは3部作を一気読みすることで、電脳世界の行く末を見てほしい。

 

*1: 必要以上の知能をAIが獲得しようとすると自壊プログラムが働く

作者: ウィリアム・ギブスン (著), 黒丸 尚 (翻訳)
早川書房

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