武士道を知ること、それ即ち、日本人が日本人を規定せしめる原理・原則への近接に他なりません。
その断言を、苛烈なまでの暴挙を高らかに許せるほど、本書の存在はあまりにも大きかったのです。
これほどまでのインパクトを含んだ本書ですが、言うまでもなく、単なる昔ながらの道徳、古臭い封建体制をつらつらと留めたものであったら、こうはならなかったでしょう。
それはひとえに、「日本人の伝統を築き上げた心」、それを、筆者の深淵なる知識に基づいた世界文化との比較から、武士道の存在意義を余すことなく証明し、普遍的な倫理観への拡張を試みたところにあると言えます。
とりわけ、第15章の武士道はいかにして「大和魂」となったか(p. 164)にある、桜と武士道の関係性は、はかなくともかぐわしい匂いが文面から漂ってくること請け負いです。
また、本書は、他の『武士道』訳本と比較しても現代口語に近い部類に該当するので、武士道を知るうえでの入門書としても最適です。
本書を通して、遺伝子レベルで組み込まれた日本人の心を思い出していただければなと思いました。