本書の主題としては、レイシズムの根幹をなすのは科学ではなく政治という部分でしょう。歴史を自分の好き勝手にねじまげることで生まれたものが、レイシズムの悪しき側面であることが十二分に伝わってきた良書です。
本書目次
第一部 人種とは何か
第一章 現代社会におけるレイシズム
第二章 人種とは何ではないか
第三章 人類は自らを分類する
第四章 移民および混交について
第五章 遺伝とは何か
第六章 どの人種が最も優れているのだろうか
第二部 レイシズムとは何か
第七章 レイシズムの自然史
第八章 どうしたら人種差別はなくなるだろうか?
第一部は、レイシズムを語るうえで矢面に立つ、「人種」に関して、科学が示してきたこと、第二部は、レイシズムの歴史、そして最後に、人種差別をなくす方法について筆者の見解が述べられています。
とりわけ、人種差別という面でクリティカルな部分は、
第一部 第六章 どの人種がもっともすぐれているのだろうか
第二部 第七章 レイシズムの自然史
になります。
前者では、
「人種間に優劣をつけるものはない」というエビデンスが人類学の数多の研究を通して差し出されているにも関わらず、それでもなお、自分が人より優れているか劣っているかの問いはひとの心から離れていかないことに対して、生理学、心理学、歴史学が用いられたことを提示しています。
後者では、
本質においてレイシズムとは、「ぼく」が最優秀民族ベスト・ピープルの一員であると主張する大言壮語である...(中略)...母親の子宮の中にいるような究極のポジションが手に入るのだ(p. 119)。
ことや、レイシズムは現実の困難から目を背けることもできるというアドバンテージもあるということを示しています。
極め付けは、第八章の、
レイシストが叫んでいるドグマは近代以降に生まれたものである。でもその背後にあるのは、人類が生まれて以来の恐ろしく古い強迫観念だ...(中略)...もしも力が衰えてしまったら、価値があるものがすべて滅びてしまうという、太古からの脅迫(p. 170)。
という部分。
価値観の許容とともに、史実をしっかりと自分の目で見渡して、物事の本質を見極める眼を養っていきたいものです。