われはロボット決定版

SFの題材として頻繁に取り上げられ、いまや現実世界においても日に日に存在感を増しているロボット。それは内閣府が提唱するSociety 5.0で実現する社会においても、AIや自動走行車などの技術と共に、少子高齢化や地方の過疎化、貧富の格差などの課題解決に向けて注目されている。

ロボットと一口にいってもその形態は様々だ。自動制御によって動作し、多目的マニピュレーション機能を持った産業用や、四足歩行型エンタテインメント用「AIBO」。「感情エンジン」と「クラウドAI」を搭載した感情認識ヒューマノイドロボット「Pepper」など、枚挙にいとまがない。

それらに付随して、生成AIやAI時代の幸福論「テクノユートピア」に対する期待は年々急激に高まっている。しかし、理想社会と現実社会の乖離は顕著だ。具体的には、2023年のイギリスAmazon倉庫の労働者ストライキや、人工知能の進歩で仕事が減らないよう保護する、アメリカ脚本家組合(WGA)によるストライキなどが挙げられる。

AIやロボットが人間の仕事を奪ったときに起こりうるできごと? というプロットはSF小説にも数多く見られるが、とりわけ、アイザック・アシモフの作品群は外せないだろう。彼の描くロボットと人間の関係性から垣間見える「わたし」のあり方は精彩だ。

本書は著者の連作短篇集で、いまなお数多くのSFで利用されるロボット工学三原則(下記)が生まれたマイルストーン的作品だ。

第一条

ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

第二条

ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

第三条

ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

各項目の相剋によってもたらされる事件がモチーフとなっており、ロボットが、ときには身を呈して人間を守ったり、ときには人間に刃向かったりと、様々なエピソードが収録されている。加えて、まるでミステリー作品のように自らの手で事件の真相を紐解きながら読み進めることができるのも、なかなかに面白い。

本書の特色は、いずれのロボットも陽電子回路という脳が組み込まれていることにある。もっというと人工知能が搭載されているのだ。そのためロボットは、与えられた命令をもとに自ら思考し判断を下すプロセスをロボット自身で実行することができる。与えられた命令の如何によっては、人間かロボットを守るべきか、というジレンマをロボットが引き起こすことになる。この自然言語処理問題は、近年話題のプロンプトエンジニアリングに対して通ずる部分もあるだろう。

本作が半世紀以上前に書かれているのは驚きを隠せない。それはきっと、本作が単なる技術物語としての枠組みに収まらず、人間の内側をとらえた作品だからなのかもしれない。

作者: アイザック・アシモフ/小尾芙佐
早川書房

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