クラッシュ

生と死が融合し、終わりなき虚構が現実を支配する。共同主観的な——幾何学的デザインの美しさ——がテクノロジーを介して人々に受け入られる様は、かつて、文字や貨幣という形で人々の間に浸透していった虚構と、同等かそれ以上のパワーを内包して広がりを見せる。

とりわけ本書で際立っているのが、セックス・シンボルの持つ魔力がアルゴリズムのようなレイアウトで描写されているところにある。

それは、

21世紀には、データ至上主義が世界観を人間中心からデータ中心に変えることで、人間を主役から外すかもしれない

『ホモ・デウス 下』  p. 236

と、ハラリが語ったような、計算機が主体となった自然を描写していることを意味する。80年代でこんなことを示唆する物語を描写できるのはやばい。

以下、Amazonの商品説明

六月の夕暮れに起きた交通事故の結果、女医の目の前でその夫を死なせたバラードは、その後、車の衝突と性交の結びつきに異様に固執する人物、ヴォーンにつきまとわれる。理想通りにデザインされた完璧な死のために、夜毎リハーサルを繰り返す男が夢想する、テクノロジーを媒介にした人体損壊とセックスの悪夢的幾何学を描く。バラードの最高傑作との誉れも高い問題作、初文庫化。

本書『クラッシュ』(原著: Crash)は、J・G・バラードによって1973年に出版された。バラード作品の中では、個人的に60年代の『結晶世界』の描く退廃的な美しさが好み。ただ、昨今のテクノロジーの進化と70年代作の対比も楽しい。

バラードの作品はいつ見ても新たな発見ができる。逆説的にいうと何回読んでも読めた気がしないので、いつも不安な気持ちにさせられるのだけれども。

そこがいい(迫真)

作者: ジェームズ・グレーアム・バラード/柳下毅一郎
東京創元社

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作者: ジェームズ・グレーアム・バラード/柳下毅一郎
東京創元社
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