それは春に散りゆく恋だった

かけがえのないもの、それは、自身を犠牲にしても得ようとしてはばからないわたしにとってのレゾンデートル。優しく拾おうと懸命に務めるが、やせっぽちな手のひらですくってみても指と指の間からするすると抜け落ちてしまう。大事に留めておきたいのにそれができない。だけど、そんなもどかしさに胸を痛める一方で、そんな自分に満足してしまっている自分もいる。

わたしは何て薄情なヒトなんだろうか。言いようのない嫌悪感、時折涙で枕が濡れる。得体の知れない恐怖に似たなにかに、いっそのこと身も心も委ねてしまえば楽になれるのだろうか。答えの出ない問いかけに、頭の中がぐるぐると渦を巻く。

でもわたしは、大切なものを得るためには最後まであきらめてはいけないことを本書で学んだ。たとえその過程が、どんなに泥まみれで、目も塞ぎたくなるような恥辱にまみれたとしても、問題の根源に真正面から向き合えばきっと、笑って過ごすことができるのだと信じて——

——蛇足

本書の主人公が家族とのつながり大事にするように、わたしが言葉を紡ぎ続けているのも社会との繋がりを持ち続けたいと思っているからかもしれません。言葉を書き記しているときだけが、唯一、社会の中で生きている実感に触れられるというか、生を感じるというか……どうしようもなく身悶えたくなる感情の発露が、キーボードの先にこばれ落ちる感覚を得たいがためにただ書いている、といった方が、しっくりくるような気もします。

作者: 東堂 燦/わみず
集英社

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