妖魔王

本作は、妖魔に恋人を殺された主人公・工藤明彦が、"念法"と木刀"阿修羅"を駆使して、妖魔との戦いに身を投じる妖魔シリーズの一つです。中でも、「因幡の白兎」の物語をモチーフとした構成となっている本作は、その物語を知っている人からすると、現代に上手く適用してドラマチックに表現されていることが分かり、ひと粒で二度美味しい作りとなっています。

菊池秀行さんのエッセンスがふんだんに詰まった本作。その魅力は大きく分けて以下の二つ、  

・エロ/グロ/バイオレンスの絶妙な塩梅

・神話・伝記の要素と現代の融合

1つ目の要素について......これが不思議なもので、どれか一つでも抜いてしまうと読み物として味気なさが抜けてしまうのです。一重に、エロ/グロ/バイオレンスをいうものが人間の内に秘めた欲求に直結したもであるからだと思い知らされます。

2つ目の要素について......古来より、神話や伝記といったものは、読み手にわかりやすいモチーフをを用いて、生きる上での教訓だとか、イデオロギーを暗に秘めているものですが、その流儀に対して、とりわけ菊池秀行さんの作品は多大なる誠意を示しており、まさに本作は、"新奇談の極地"に到達したと行っても過言ではないつくりとなっています。

読めば読むほど、内なる熱量の奔流がほとばしる本作の力を、実際に読んで体験していただけたらなと思います。

作者: 菊池秀行
光文社

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