本書は、第1部から第5部までの全13作の短編が綴られています。尻切れトンボみたいに後味の悪いものもあれば、場面展開がスローモーすぎて何回も本を閉じなければ読み進められもの、そうかと思えば、間隙無く息をつく暇もないほどのめり込める短編があったり……、それぞれの作品を単独で見るには耐え難い苦痛や、むしろ、熱量を生じさせる作品たちが並びます。
しかしながら、それらを通して読むと感情のうねりが良い塩梅に中和しあって、ある種フレンチコースをたしなんでいるかのようなまとまりのある一つの作品として、成立しているのです。
このような妙も、編者が北村薫さんと、宮部みゆきさんということもあるからでしょう。
個人的には、O・ヘンリの『警官と賛美歌』といった、起承転結のはっきりとしたストーリーを好む性質があるもので、尻切れトンボのような終わり方がされている短編だと何やら不親切な気がして嫌いでしたが、他の作品との マリアージュの如何によっては嫌いにならないもんなんだということを知れて良かったです。まるで、人付き合いの術を教えてもらったかのような、そんな心持ちです。
□■□■□
また、一つ一つの日常生活にも応用できそうな洒落た表現の数々は虚構と現実をシームレスに行き交い、それはまるで、
小説家が小説家らしく生きるための視点
を、一般人向けに抽象化して提供してくれているかのようでした。
本を読むだけでなく、書く人にとっても手に取らずにはいられない、そんな一冊です。