本作は、辺境の地に佇む大衆食堂<このみ屋>の娘ーこのみと、無味乾燥とした食事を「美味しいものの記憶」を頼りに改良していこうとする主人公ー若旦那たちの奮闘記です。
肝心のSF飯の内容は、
奇妙奇天烈な食べ物の数々をご堪能あれ
と、帯紙に書いてある通りの食事が多数。
具体的には、
「色合いは、うん、よかったですよ」
と、本作の主人公に言わせるほどの品々で、食材(といっても、食用藻とか粘菌とか)を食料合成機にぶち込んで調理? したもの……
そのようなThe SFチックな環境下に晒されてなお美食を求めて闊歩する姿に、胸をうつこと請負です。
本書目次
1. 無料のB定食はない
2. 宇宙ステーキには紙の皿を
3. ヌカミソハザードの恐怖
4. 胃袋の握手
本作を通じて、食事は必要十分なエネルギーを補足するためだけに存在しているのではないと強く実感いたしました。 というのも、食事の合理化を進めていくのであれば、栄養や機能を優先して作られた無味乾燥としたもの(例えば、錠剤や、ペースト状の流動食)というものが主流になるはずだからです。
しかしながら本作では、食事の場——とりわけ娯楽が皆無な環境下において——で求められるのは、生き抜くためのモチベーションを向上させるために必要な「娯楽」として機能だと気付かされます。これは、現実世界において、宇宙食のフリーズドライ製法や、軍隊に配布されるレーションの味が年々改良されていくことからも見てとれるでしょう。
そういった意味において、本作の主人公である若旦那が、「美味しいものの記憶」を頼りにより食事を美味しくしようとするという物語も、食事に込められた魅力を再考するためにはよくできた設定なんだなと思い知らされました。
ただ一つ気になったのは……
SF飯とタイトルにあるくらいだから飯を起点とした物語かと思いきや、どちらかというと、飯よりもそれに付随するSF要素——ベーシックインカムの走りや、生態系維持のためのソーシャルシステム——にスケールしていったところです。
宇宙空間という限られたリソースの中における飯の使い所って難しいなぁというのを思い知らされた一冊でもありました。