男たちを知らない女

本書、『男たちを知らない女』(原著:The End of Men)は、パンデミックを生きる女性たちのドキュメンタリー集だ。しかもそれは、男性の9割が死滅した世界を舞台にしている。社会における女性の役割を解析するフェミニズムSF(ジョアンナ・ラス『変革のとき』、マーガレット・アトウッド『侍女の物語』)の例に漏れず、ジェンダーを定義するときに生殖能力が果たす役割や、男女の政治的・肉体的な不均衡といった社会問題を提起している。もちろん、ドキュメンタリーという特性上、社会問題それ自体を解決の方向にもっていくための道標を論理立てていくことを主としたものではない。

矛盾、希望、恐怖、嫉妬。この世界にあるのは、女性ひとりひとりの闘争だ。夫と息子を疫病で亡くしたものもいれば、その逆で免疫をもっていたものもいるし、疫病の遺伝子配列を無償で公表したものもいれば、ワクチンのライセンスをふっかけるものもいたりと、とにかくカオス。加えて、女性ひとりひとりの視点が、ブラウン運動よろしく、激しく移動する。具体的には、『息子のためならなんでもするっ』、というスタンスの母親が、2、3ページ後には疎開してきた子どもたちを受け入れちゃったり、『悪い、やっぱ辛えわ(夫を亡くすの)』、というスタンスの未亡人が、『何十億人の男が亡くなっているときにひとりの女の悲しみがなんだっていうの?』からの、『夫がいなくなって安堵したんだよね』、という宇宙猫もびっくりな心変わりをする。

キャラにsyncするのに一苦労。読了消費カロリーは大量。理性とか分別を度外視したつっこみポイントがかなりあるので、そういう部分を意識しながら読んでみると、楽しめるかもしれない。

作者: クリスティーナ・スウィーニー=ビアード/大谷 真弓
早川書房

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作者: クリスティーナ・スウィーニー=ビアード/大谷 真弓
早川書房